2010年05月08日

地域の経済発展と住民の思い−マカオの旅で感じたこと

「まちが寂れると、物理的に困る。
でも、まちが栄えたからといって、住んでいる者は喜べない。
昔のまちが良かった。」
こんな声をマカオで、よく耳にしました。
この話を、帰ってきてからも考え続けていました。

私は、イエズス会宣教師の書簡を史料に歴史研究をしていました。
ですから、マカオは、一度は訪ねたい場所でした。
マカオの友達が大学を卒業し、ロンドンへ留学する前に、
思い切って行くことにしました。

飛行場に迎えに来てくれた旅行会社の方から、
マカオの情報を教えて頂きました。
カジノについて、一生懸命語ってくれました。
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マカオの人口は約55万人。
広さは30平方km弱(埋め立てによって増えた)。
資源もない小さな島だけど、一人当たりのGDPは日本と同等。
税収の約7割はカジノです。
カジノのお陰で、雇用が創出され、社会福祉も充実しました。
学校教育の授業料は15年間無償です。
高校生以下、65歳以上、妊娠出産の人は医療費無料です。
医療保険はないですが、年末に一律にお金が給付されます。
健康に過ごせれば、そのお金はお小遣いのようなもの。
太極拳や公園の運動器具を使って、健康を維持するなど、
予防医療に力が入るそうです。

一方で、変わりゆくまちへの寂しさや経済発展へ疑問を投げかける声を聞きました。

海の景色や古い町並みが消え、
若者の生活は乱れてしまったと私の友達は嘆きます。
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この写真は、聖パウロ学習院教会(大三把)の隣にあるお寺。
この壁は、外的から守るための防壁だったそうです。
つまり、ここから先は海だったのです。
「つい10年ほど前には海はあそこまであった」
近くの砲台から、昔の景色を説明してもらいました。

黒沙海灘は、黒土のビーチです。
しかし、現在のビーチは埋め立てなので、
黒土は他所から運び込んできているそうです。
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祖父の家が近くにあり、よく遊んだこと。
小さな商店があり、小さい妹がよく手伝いをしていたこと。
小さい頃、父と人力車に乗せてもらったこと。
いつも家族でアンドリューおじさんのエッグタルトを食べること。

CIMG0305

家族や友人との思い出が、場所と密接に関わっています。

今、失われつつある景色とそれに結びつく思い出を
大切にしようとする機運を感じます。

これは博物館で買った写真集です。

CIMG0376

こちらは、マカオの今昔を伝えるシリーズが出版されています。
一般の書店で買いました。
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マカオ政府も、カジノのイメージだけではなく、
歴史と文化遺産のまちをPRしたいと友人は語っていました。

まちなみが消えていくことは、
住んでいる人たちの記憶も消えていくことになります。
個人的な記憶だけではなく、
家族・親戚や近所の人、友達、仕事仲間、・・・
地域の共同体とともに積み重ねた社会的な記憶でもあります。

そんな住んでいる人の思い出・記憶を大切にしていく。
マカオは、その段階に来ています。
日本でも、『まちづくりのオーラル・ヒストリー』という本で、
住んでいる人々の記憶を資源としたまちづくり実践が報告されています。

これからは、目に見えない豊かさも考慮されると実感しました。

今、私は、生活している方々の記憶を資源として、
アーカイーブ化し、教育やまちづくりに活かすための
「おばあちゃんの知恵袋」プロジェクトの取り組みを始めています。

ukon7 at 12:48│Comments(0)TrackBack(0)clip!コラム 

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