2014年04月29日

スティーブ・ジョブズ・スクールを訪問して-オランダ報告11

2014324日から29日、(社)教育共創研究所はオランダ視察を主催しました。

イエナプラン教育の小学校、ダルトン教育の中等学校、スティーブ・ジョブズ・スクール(小学校)、教員養成機関(高等専門学校)、ロッテルダムの教育サポート機関CEDと特別支援学校を訪問し、この視察のコーディネーターであるリヒテルズ直子氏によるレクチャーと盛り沢山の内容となりました。今後、一つひとつご報告していきます。

 

スティーブ・ジョブズ・スクール

【インターネットの影響】

 現代社会では、インターネットが生活の一部となってきている。書類もPCで作成し、メールで送る。情報の更新が速い。中学生の時に覚えた内容が、20年後に役立つという保証はなくなった。情報量も爆発的に増加し、「知っている」ことよりも、学び方を身につけることが大切になってきた。教育のあり方も変わってくる。

働き方も変わってきた。単純作業をこなすことよりも、考えて行動する力が求められるようになってきた。学校でも、決まった内容を覚え、与えられた課題に答えるだけではなく、自分で課題を発見し、解決していく能力を育てようという流れに変わりつつある。

社会は複雑になり、個人や一つの組織で物事を解決できなくなってきた。関係者との協力が必要となる。学校では、協働することを学ぶようになってくる。

一人の先生が大勢の生徒たちに、知識を伝える画一的な一斉教授から、一人ひとりにあったオーダーメイドの学びに転換していく。

これらの教育についての考えは、教育哲学者デューイが提唱し、日本でも大正時代に新教育運動として、いくつかの実践がみられる。しかし、戦争の影響もあり、衰退した。何より、予算の問題もあり、一人ひとりにあった教育の実現は、当時では難しかった。

今、インターネットによって可能になる。家で授業の動画を見て、学校で協働学習する反転授業と呼ばれる授業方法が注目されている。

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スティーブ・ジョブズ・スクールとは】

上記のような社会変化から、20138月、オランダで10校の「スティーブ・ジョブズ・スクール」とよばれる小学校が試験的に開始された。筆箱やノートではなく、iPad(タブレット型コンピューター)などを活用。教科書と連動したソフトを使ではなく、実社会を教材としている。自由な学び方を採用しているが、学習内容は国が定めた学習目標にそったものである。
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DSCN1787始業時間はなく、決められた時間割はない。児童が自分たちで、時間割を組む。校舎もつねに開かれているので、児童はいつでも登校することができる。従来のようなクラスや学年、教室という概念もない。異なる学年の児童が、共に学び合う。実験や技術、美術など、学ぶ内容にあった教室を整備している。

スティーブ・ジョブズが建てたわけではない。それぞれの学校は独立経営である。私が訪問した学校は、裕福な子どもたちの学校と勘違いされるので、もっとオープンな学校名であるPerpetuum小学校に変更すると話しておられた。

【オランダの教育制度】

スティーブ・ジョブズ・スクールがアメリカではなく、オランダから生まれたのは、オランダの教育制度のおかげであると言える。

オランダでは、教育の自由が認められている。学校の教育理念や教育方法は、学校に任せられている。ただ、国によって、到達すべき学習目標は定められており、定期的に学力テストが行われている。成績を競うようなものではなく、子どもの成長を測定し、適切な指導を行うための材料となるテストである。この結果によっては、教育監督局が、学校の指導に入る。自由であるが、しっかりと行政によって管理されている。

多様な学校があるので、児童・保護者は、学校を選択することができる。通わせたい学校が無い場合は、規定(200人ほど)の児童・生徒が集まれば、学校を設立することもできる。設立の費用は、行政から出る。モンテッソーリ、イエナプラン、フレネ、ドルトンプランといった教育の実践が、提唱された国以上に、オランダで根付いているのも、教育の自由が保障されているからである。

オランダでの先進的な教育実践が背景となって、スティーブ・ジョブズ・スクールの特徴として実現している。たとえば、時間割を児童が自分で作ること、学習内容にあった教室を準備することは、ドルトンプラン教育の特徴である。イエナプラン教育では、異年齢の集団でクラスを作っている。現実社会を教材に、探究する学びを展開してきたことも、これまでの教育実践を引き継いでいる。 

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写真 イエナプランのクラスルーム

補足すると、オランダの小学校は、4歳から12歳。4歳の誕生日から通うことができ、バラバラに入学してくる。幼児の1年の差は大きい。4月生まれも、3月生まれも、一律に4月入学という日本とは違う。


【実際に視察して】

 私は、今年3月に、ブレダ市にあるスティーブ・ジョブズ・スクールを訪問した。日本の小学校のように立派な校舎や校庭ではなく、住宅に囲まれたこぢんまりとした施設であった。

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写真 校舎は手前のオレンジの平屋(後ろの建物は住宅)

iPadによる学習が強調されているが、それは方法論の一つに過ぎない。「ハイテクな」印象を持たれるかもしれないが、実際には技術や美術の実習ができる作業室もあり、対話ができる空間もあった。 

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私たちの訪問時、児童は4名しかいなかった。インターネットのオンライン学習との二本柱での一つである、学校での学び合いが、この人数では機能していない。

在籍は15名。学校設立の条件を満たしておらず、現在は企業の協賛によって運営されている。教育監督局とは設立に向けて話し合っており、児童を増やし、学校として認められるよう準備中とのこと。オランダにおいても先進的な学校のため、まだ保護者の理解が得られていないと校長は説明された。

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この学校について、オランダでも賛否が分かれる。
オランダの進学校の校長は、これからの時代の流れと認識されていた。一方で、私が出会った教員志望の大学生は、iPadに没頭し、友人との交流が薄れ、教育的効果はマイナスではないかと答えていた。政治家や評論家からも、否定的なコメントが寄せられている。

現在、オランダでは約六千人の児童が学校に通えておらず、ホームスクーリングの要請が市民からあがっている。また、国ざかいでは、オランダの教育に不満のある保護者が隣国の学校に子どもを通わせていると、校長は危機感を示しておられた。

「現実の社会にあった教育が求められている。もし、シュタイナー(現代の教育にも影響力のある教育哲学者)が生きていたら、iPadを使っていたであろう」と、校長が語っていたのが印象的だった。 

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