リヒテルズ直子

2014年09月27日

『学習する学校』読書会を開催しています

毎月、『学習する学校―子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』読書会を開催しています。『学習する学校』とは、その副題の通り「子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する」ための指針であり、ワークブックです。原題は"Schools That Learn"
教育論議は、それぞれの立場や前提がそろわないまま、意見が平行線になっていることが多いと感じます。同じテキストを読み、その内容にそって話し合うことは有意義だと思い、読書会を企画しました。 

「シンガポールの『考える学校・学習する国家(TSLN)』教育改革は、本書の基本理念のもと、2万人以上の教育者を巻き込んだ国家規模の改革となった。生徒を受動的な大人にする試験と反復中心の従来の学校教育から、近い将来、人々に今以上に強く求められる批判的思考力や創造性、アクティブで主体的な学習を育む学校への転換を国家規模で実現した。」(本書 訳者まえがき より)
「教育は変わらない」と嘆いているばかりでなく、小さくても行動を起こしていくことが必要だと思います。そのために『学習する学校』は最適なテキストです。
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『学習する組織―システム思考で未来を創造する』の著者で、経営思想家のピーター・センゲによって書かれました。「5つのディスプリン」や「システム理論」にもとづいて、今日の教育システムを取り巻く諸課題を踏まえ、教室、学校、地域コミュニティにおける教育改革の指針を提示しています。
訳者は、オランダ在住の教育研究家のリヒテルズ直子さん。海外との教育文化の違いも補足され、日本人に理解しやすく訳されています。経営組織論や新自由主義的な教育改革に偏らず、デューイなど教育思想の流れをおさえており、彼女だからこそできた本だと言っても過言ではありません。
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(写真 2014年1月 左から駒井・滋賀県議、嘉田・元知事、リヒテルズ直子さん、山下)

私たちの読書会では、第3部「コミュニティ」について読み込んでいきます。
参加者は、この本の内容を実践されている方が多いです。
PTA活動や高齢者や女性の就労や健康の事業を行っている方。イエナプラン教育を研究しながら、学習支援のNPO活動されている方。インターナショナルスクールを立ち上げた経験があり、今では草の根の教育活動で理想の学校つくりを展開されている方。子どもたちの第三の居場所である民間の学童保育と学習塾の教室長。私も、生涯学習や地域プロジェクトを生み出す「まちなかカレッジ」や教育支援、更生支援、そして市議会議員として市民の方の声を聴き、教育行政に働きかけています。
教育は、学校だけで行われているものではなく、地域・社会全体で考えるべきものです。毎回、参加者の方々の視点から学ばせて頂いています。
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会場は、プチカル柏の葉といって、住宅地の空き家を活用し、地域コミュニティの核となるようなサロンです。高齢者や主婦の就労のきっかけやイキイキと健康に暮らせるための予防医学的な活動が展開されています。
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この本は888ページと非常に分厚く、なかなか手を出せないという声を聞いていました。途中で挫折しまう恐れもあります。読書会に参加することによって、読む後押しになったり、読み続けるための支えにもなります。
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参加者は、日頃、目の前の課題に取り組んでいますが、この読書会は行動を振り返り、体系的に考える機会になっています。そして、他の参加者の読み方と経験は、一人で読んでいるだけでは得られない学びがあります。
※次回は10/23(木)10:30〜プチカル柏の葉の予定です。ご参加ご希望の方、ご連絡ください。
tel: 04-7170-0668 fax: 03-6745-9416 mail: info@y-yamasita.com 
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第3部 コミュニティ 目次
第13章 コミュニティに入る
1学習するコミュニティを培う
第14章 アイデンティティ
1コミュニティのつながりを吟味する
2「表現は抑圧を跳ね除ける最初のステップ」
3話合いを通じてシチズンシップを取り戻す
4国家規模でビジョンを共有する
第15章 つながり
1親から親へ
2オーバー・ザ・ラン住民プログラム
3システム・バスケット・コーチ
4ビジネスと教育のパートナーシップを改善する
第16章 持続可能性
1雨を降らせる人
2パブリック・エンゲージメント
3ビジョンを引き出し、ポジションは抑える
4一つの村を育てるには子どもが一人必要
5共有地の悲劇
6リーダーとしての子どもたち
7あなたの組織は学習しているか
8システム市民


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2012年05月21日

イエナプランとは‐オランダ報告2

イエナプランとは、異年齢・異学年で学級を編成。上級生に教わり、下級生に教える。
車座で対話を通して、協働して学ぶ。同時に、静かに学ぶ時間、自立学習を重視する。
知識面では、学年ごとの小集団に、先生が説明。理解した児童・生徒から、自立学習に移る。友達に教わったり、PCや図書で調べたり、先生に質問して、身につけていく。

ドイツのピーター・ペーターゼンによって、1923年ころから研究と教育実践が始まった。
第二次大戦やペーターゼンの死によって、ドイツでは停滞。1950年代にオランダに入り、発展を遂げる。
70年代のオランダの学校教育改革、特に画一教育から個別教育への変換に、甚大な影響をもたらした。

Dr. Schaepmanschool (ドクター・スハエプマン小学校)
http://www.schaepmanschool.nl/
イエナプランの優良校の賞を取った学校です。
この学校は、4月13日に日本テレビで放映されるアナザースカイで、尾木直樹さんとともに訪れ紹介されました。
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中央 Dr. Schaepmanschool (ドクター・スハエプマン小学校)の校長先生
左 長井悠ハバタク株式会社取締役
右 山下洋輔

イエナプラン教育の20の原則
http://study.japanjenaplan.org/?cid=2 より引用

1.
どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがいのない価値を持っています。

2.
どの人も自分らしく成長していく権利を持っています。自分らしく成長する、というのは、次のようなことを前提にしています。つまり、誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使ってものごとについて判断する気持ちを持てること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。自分らしく成長して行く権利は、人種や国籍、性別、(同性愛であるとか異性愛であるなどの)その人が持っている性的な傾向、生れついた社会的な背景、宗教や信条、または、何らかの障害を持っているかどうかなどによって絶対に左右されるものであってはなりません。

3.
どの人も自分らしく成長するためには、次のようなものと、その人だけにしかない特別の関係を持っています。つまり、ほかの人々との関係、自然や文化について実際に感じたり触れたりすることのできるものとの関係、また、感じたり触れたりすることはできないけれども現実であると認めるものとの関係です。

4.
どの人も、いつも、その人だけに独特のひとまとまりの人格を持った人間として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。

5.
どの人も文化の担い手として、また、文化の改革者として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。

6.
わたしたちはみな、それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重しあう社会を作っていかなくてはなりません。

7.
わたしたちはみな、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会をつくっていかなくてはなりません。

8.
わたしたちはみな、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いやそれぞれの人が成長したり変化していくことを、受け入れる社会をつくっていかなくてはなりません。

9.
わたしたちはみな、地球と世界とを大事にし、また、注意深く守っていく社会を作っていかなくてはなりません。

10.
わたしたちはみな、自然の恵みや文化の恵みとを、未来に生きる人たちのために、責任を持って使うような社会を作っていかなくてはなりません。

11.
学びの場(学校)とは、そこにかかわっている人たちすべてにとって、独立した、しかも共同して作る組織です。学びの場(学校)は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです。

12.
学びの場(学校)で働く大人たちは、1から10までの原則を子どもたちの学びの出発点として仕事をします。

13.学びの場〈学校)で教えられる教育の内容は、子どもたちが実際に生きている暮らしの世界と、(知識や感情を通じて得られる)経験の世界とから、そしてまた、<人々>と<社会>の発展にとって大切な手段であると考えられる、私たちの社会が持っている大切な文化の恵みの中から引き出されます。

14.学びの場(学校)では、教育活動は、教育学的によく考えられた道具を用いて、教育学的によく考えられた環境を用意したうえで行います。

15.学びの場(学校)では、教育活動は、会話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本的な活動が、交互にリズミカルにあらわれるという形で行います。

16.学びの場(学校)では、子どもたちがお互いに学びあったり助け合ったりすることができるように、年齢や発達の程度の違いのある子どもたちを慎重に検討して組み合わせたグループを作ります。

17.学びの場(学校)では、子どもが一人でやれる遊びや学習と、グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習とがお互いに補いあうように交互に行われます。グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習は、特に、レベルの向上を目的としています。一人でやる学習でも、グループリーダー(担任教員)から指示や指導を受けて行う学習でも、何よりも、子ども自身の学びへの意欲が重要な役割を果たします。

18.学びの場(学校)では、学習の基本である、経験すること、発見すること、探究することなどとともに、ワールドオリエンテーションという活動が中心的な位置を占めます。

19.学びの場(学校)では、子どもの行動や成績について評価をする時には、できるだけ、それぞれの子どもの成長の過程がどうであるかという観点から、また、それぞれの子ども自身と話し合いをするという形で行われます。

20.学びの場(学校)では、何かを変えたりよりよいものにしたりする、というのは、常日頃からいつでも続けて行わなければならないことです。そのためには、実際にやってみるということと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度を持っていなくてはなりません。

(リヒテルズ直子訳)




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イエナプランの授業風景‐オランダ報告3

リヒテルズ直子さんのご案内で、イエナプランの学校を中心に見学した。イエナプランの教育は、学年の違う子供たちを混合してクラスを編成し、学び合う共同体を作る。自分で学習計画を立て、各自で課題に取り組む。一方で、対話や観察を中心とした授業が展開されている。自立学習と協同学習を組み合わせたものである。


 私が見学した
20名のクラスでの学習風景を紹介する。3つの学年が1クラスに在籍。1学年6名が先生の周りに座り、算数の説明を受ける。1回の説明で理解した児童は、自席に戻り、課題を取り組み始める。もう一度、先生は、かみくだいた説明をする。児童が、分かるまで繰り返される。そして、次の学年が先生の周りに集まった。

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 説明を終えると、先生は教室を歩き、質問を受ける。みんなの前で質問するわけではないので、内気な児童でも大丈夫である。また、教室に備え付けられているPCの教材で調べている児童もいる。同じ班の先輩から教わる児童もいる。先輩も教えることで、理解が深まる。異学年混合クラス編成の利点だ。

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日本の塾で行われている個別教育の良さと、教室という社会の中で学び合う良さの両方が生かされた教育であった。

これで、学習は身についているか?そんな心配は不要である。全国模試のようなテストを行っている。点数を競うのではなく、今後の学習や指導の指針となる。本来の意味でのテストだ。結果によっては、心理学など専門家によるサポートも受ける。自由な教育が認められる反面、教育監督局の指導を受けており、自由放任なわけではない。

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※訪問校 ’t Kompas ヘト・コンパス小学校
Vlaardingen(フラールディンゲン)という都市にあるプロテスタント系の小学校。イエナプラン校ですが、ピースフルスクール・プログラムという、現在シチズンシップ教育のメソッドとして先端を切っているプログラムを採用している。
http://www.jenaplan-tkompas.nl/

※訪問校 ドクター・スハエプマン小学校
イエナプランの優良校の賞を取った学校。この学校は、4月13日に日本テレビで放映されるアナザースカイで、尾木直樹さんとともに訪れ紹介した学校です。

http://www.schaepmanschool.nl/


オランダは、移民も多く、多様な社会である。教育も、多様である。フレイネ、モンテッソーリ、シュタイナーなどの進歩的な学校やイスラム教の学校など、様々な教育が行われている。このイエナプランも、その中の一つに過ぎない。当然、オールドスクールと呼ばれ、教壇で先生が板書して、教科書を読む画一的な学校もあるということも触れておく。

 




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2012年05月02日

リヒテルズ直子さんとの出会い‐オランダ報告1

私は、土浦日大高校で教諭を勤めていた。

生徒中心の学級運営、部活動や学生寮での自立的な組織作り、協同的な学びのの授業など、充実した教育活動であった。

しかし、大きな壁にも直面していた。
学校外での生徒を取り巻く環境だ。
家庭や地域、社会が与える生徒への影響は大きい。
経済不況で親が失業している家庭、TX新線開通や郊外大型店の進出によるまちの衰退。
治安の悪化、若者をねらった犯罪、「勉強したって社会の役に立たない」と言う大人。

「何とかしなければ」
そんな気持ちで解決策を模索する中で出会ったのが、リヒテルズ直子さんが書かれた『オランダの教育』だった。
その本を読み、社会を変える教育・教育を支える社会という視点を得たのであった。

それから約5‐6年が経った。
学校を離れ、研究だけではなく、地域に入って声を拾い、教育について考えてきた。
今回、そのリヒテルズさんに対面し、語り合い、オランダの学校をご案内して頂いた。


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